「漂う」(第三話)
第三話
あなたが言うところの七色に光る虹ともオーロラとも呼べるような神秘的なベールに包まれた空を、あなたは飛んでいた。
あなたはなんでも把握していた。全能ではないが、およそ全知であった。
昼でも夜でもない世界にて、あなたは空から問いかける。
「私の伴侶となるのは誰だろうか」
あなたにもっとも近い高さまでそびえる山の頂上にある教会の鐘が街に鳴り響く。
あなたはすでに答えを知っていた。
教会は黄昏色に輝き、その姿を変えた。
一点の淀みのない透き通った瞳。大地を包み込む慈悲ある微笑みを具現する口元。輝きをそのまま染めた美しい髪。そして白よりも真っ白な雪をまとうがごとく優雅に粛々とドレスを着ていた。
あなたが着ている黒よりも真っ黒な魔法のローブとは対極がゆえに混じり合うことが許されたかのよう。
あなたはこの時を長く待ちわびていた。この世に生を成し、すでにおよそ全知ゆえにこの時のことを知っていた。
そして、再び問う。
「愛しきあなた、この祝福された世界をともにしてもらえるだろうか」
澄んだ空気を震わせることなく、教会のパイプオルガンが奏でる旋律のような美しい声が直接あなたの脳に響き渡る。
「この世界に生を成してすぐにあなたのことを知りました。そしてあなたはもうあなたの問いに対する私の答を知っている」
街は一瞬にして夜の帳が降ろされ美しい暗闇となった。
色とりどりの光が各々の軒先に灯る。二人を祝福するかのように。
あなたは知っていた。
街の人々すべてが今この瞬間にあなたたちが出逢い結ばれることを知っていたことを。
あなたはおよそ全知である人が生きる世界に生きている。誰もがおよそすべてを知っている。
あなたは手を取り、街の上空を飛び回る。
それは妖精が踊る華やかなダンスのよう。
そして、街は、世界は、真っ白な光に包まれた。