「漂う」(第四話)

第四話

 それは夢なのかもしれない。
 あなたはショート丈のダッフルコートにミニスカート。黒のタイツが足を細く長く映す。
 あなたは少し斜め下のほうを向き、ほんのりと口角を上げて微笑む。
 唇には派手すぎない程度に薄く艶の出るリップを塗り、同様に頬には微かにチークをのせている。
 足元に付けた香水が歩くたび、そよ風が流れるたびに自然と香る。
 あなたは足をクロスして立っていた。
 あなたは彼が好きな仕草や表情、スタイルまでわかっている。ときに大胆に、ときに小悪魔的に、大人スタイルを意識しながら自分の魅力を最大限に映す術を心得ていた。
 数々の視線があなたに注がれる。その一つひとつがあなたをより魅力的な姿に変える魔法となる。
 彼があなたの虜になるまでにそう時間はかからない。
 どちらともなく会話が生まれ、あなたのテリトリーに彼が入った瞬間に勝負は決する。
 あなたが望む通りの言葉を彼は口にすることだろう。
 あなたはその言葉を受け、全身の神経が協奏曲を響かせ始めるのを感じる。高鳴る鼓動が指揮を取りリズムを告げる。身にまとう空気もより華やかなものとなり、さらなる美の高みへと駆け上る。
 あなたは胸に気持ち良い苦しみを感じていた。この感情は恋と呼んでいいのだとあなたは思う。
 純白の、毛並みの整った白馬に乗った王子様があなたには見えた。蹄の音が胸の音と重なる。一歩、また一歩と淡い感情があなたの胸に近づく。
 あなたは思わずため息を漏らした。
 舞台は整った。
 段々と視界がぼやけていく。霧のような、靄のような、それがより神秘的な雰囲気を演出する。そして、ついにはあなたの視界は真っ白な世界に包まれた。