「漂う」(第十一話)

第十一話

 ホットヨガスタジオのタイムスケジュールを見ながらあたなは悩んでいた。
 恋と呼ぶには早計かもしれないが彼女以外の他のインストラクターのときには決して感じない何か焦がれるという想いの記憶があなたの胸にちりちりとしたものを残していた。
 彼女の名前を見ても特別なものは感じない。決まって彼女の声に導かれるかたちで特別な境地に至る。
 あなたは彼女の名前を探していた。
 一週間に一度だけの存在。
 それがまた特別たらしめるところなのかもしれないとあなたは思った。
 昨晩飲みすぎたのかあなたは軽い頭痛に苛まれていた。
 長い付き合いの幼なじみと飲むとき、いつも次の日は体が怠い。
 汗をかいてデトックスしたい気分であったが、休日のタイムスケジュールに彼女の名前を見たことはなかった。
 あなたの記憶の中で彼女の声は確かに再現される。けれども生の声から導かれるのと同じ状態には決して至ることはなかった。
 あなたは深い呼吸から深く深く自己の内面を見つめようと瞑想を試みる。
 あなたは深い森を彷徨う冒険者だった。
 冷たい空気で心が洗われる心地がした。
 コツコツというその場に相応しくない固く高い音が聞こえる。
 森を抜けた遠くのほう。音に導かれあなたは歩みを速めた。
 あなたは強く壁にぶつかり、現実を把握した。
 あなただけの力で今のような境地を体験するのは初めてのことだった。
 そして、窓から見下ろす景色の端に遠ざかるコツコツという音を見た。
 後ろ姿だった。見慣れないスーツ姿。
 だがそれは確かに細く女性らしい綺麗なシルエットだった。