「漂う」(第十四話)

第十四話

 あなたは電車に揺られていた。
 大人女子を意識した格好をするため青山で買い物をすると決めていた。
 電車から降り、すれ違う人に目を向けると一瞬脳裏をかすめるときめき。
 振り返って見るも、それはまったくの見知らぬ人。
 あなたは常に探していた。
 偶然どこかで会えるかもしれないと。
 休日の青山は平日と比べると少し雑多な印象をあなたは受ける。
 大通りを歩くあなたは洗練されていて、道行く人の目を奪う。
 積極的に声をかけてくる人にもあなたは目もくれず、あなただけに用意されたレッドカーペットのごときあなたの道を歩く。
 どのくらい歩いただろう。
 長い大通りの終わりにあなたは一人の姿を捉えた。
 洗練されたタキシードを身にまとう紳士。
 レッドカーペットが色鮮やかに映え、周囲の景色も舞踏会を催す中世の街並みに変化していた。
 あなたは純白のドレスに包まれ、ゴールドのティアラを頭に載せていた。
 一歩。また一歩と待ち構える彼に近づくたびにティアラの輝きが増すのがわかる。
 一歩。また一歩と歩みを進めるたびに景色がどんどん変化していく。
 世界はあなたを、あなたたちを祝福していた。
 ファンファーレが鳴り、絢爛豪華な装飾の旗が大きく宙を舞う。
 美しい旋律のメロディが場の雰囲気をより洗練されたものへと押し上げ、誰もが幸せのおすそわけを享受しているようだった。
 再び鳴るファンファーレ。
 音は何度も何度も反響する。
 そしてあなたはようやく気がついた。それがファンファーレではなく、大通りの渋滞によるクラクションであると。