「漂う」(第十七話)
第十七話
あなたは深く感じていた。狂おしいほどに。
それは本当に狂気と呼べるものだとあなたはあなた自身でそう認識していた。けれども抑えることができない。呼吸をするかのような自然な行為として。
あなたは地味な服に身を包んでいた。おしとやかな大和撫子だった。
閑静な住宅街は昼間と言えど人通りは少ない。
だからこそ感じる。あなたにまっすぐに向けられた熱い視線を。
あなたは歩みをゆっくりにする。
殺した足音が段々と近づいてくるのをあなたは確かに感じた。そして感じた。あなたに触れる手を。
逆光で相手の顔は見えない。
あなたは体の力が抜けるのを自覚し、歩みを止めた。
白昼。
四方を住宅に囲まれた場で。
それがあなたをより一層強い狂気へと導いた。
ゆっくりと、段々と手はあなたの中へと押し進む。
自然と手はスカートの中へ。
あなたはすでに濡れていた。
濡れているところはオアシスへと続く道。手はまさぐり、さらなる潤いを求めてきた。
オアシスを見つけた手はすぐに露と消えた。
だがあなたはそれでも狂気の恍惚というオアシスに至っていた。
射し込む日差しに目を細め、あなたは調書を閉じた。
香りの高いコーヒーを飲み、うっとりした心地を抑えながらあなたは午睡へと向かった。