「漂う」(第二十話)
第二十話
あなたは壇上にいた。
各界の重鎮の目という大小様々なカメラがあなたに向けられていた。
それはときに優しく、ときに厳しく、可視化した光線のように色を変えながらレンズから発射された。
皺のないタキシードにさらに張りを出しそうなほどの熱い視線。
高級感あるネクタイが首を締め付けるのを助長させるような冷たい視線。
あなたはうんざりするほどに見てきた。
この場に立つ人間に向けられる人間臭い濃厚な感情の波を。
あなたは想う。
この場の誰にも理解されなくてもかまわないと。
ただひとり、自分という人間をなんとなくでも理解してくれるのなら他に何も望まないと。
そのひとりはこの場にはいない。
淀みない空気とは相反する空気の流れが会場内を満たしていく。
あなたは思惑が渦巻く様子が目視できるかのようだった。
あなたは再び想う。
壇上の真正面にあるあの大きな扉が開かれ、自分をここから解放してくれる存在が現れればと。
あなたはスピーチを終え、大きな扉に向かう。
自分の足で道を切り開いていくしかないと心に決めて。
そして大きな扉に手をかけた。