「漂う」(第二十五話)

第二十五話

 あなたは表現しようのない気分で青空を見上げていた。
 結果はわかっていた。ただ自分の口から正直な想いを伝えることができてよかったとあなたは心から想う。
 あなたは温かな陽射しが降り注ぐ昼下がりに幼なじみと肩を並べて歩いていた。
 違う。
 これはあなたの理想。
 お互いにどこか気まずい雰囲気が出来てしまった。今まで通りの良好な関係でいられたらとあなたは願う。
 「何を心配してんだよ。俺とお前の仲だろ。どこまでも一緒に行こう」
 すべてが報われる極上の一言が聞こえた。
 違う。
 これはあなたの夢想。
 あなたは想う。
 大学生の女の子から好きと言われてひどく驚いたことを。
 異性からの好意に一切の感情の動きが、胸の高鳴りがなかったという自分に心底改めて驚いた。
 雲間からの光を伝って天使が下りてきた。
 手に持つ弓は想いを成就させるものだろうとあなたは直感的にそう感じた。
 彼ともそうやって。
 違う。
 これはあなたの空想。
 「おう。なんか微妙だな。でもまあ、大丈夫だろ俺らなら」
 久々に会った幼なじみは最初こそどこかぎこちなかったが、すぐにいつも通りに接してくれた。
 が、突然、幼なじみはあなたの手を強く引っ張り寄せた。
 まるで女性を扱うかのように乱暴に優しくあなたを車道側から遠ざけた。
 違う。
 これはあなたの妄想。
 あなたは呼吸が浅くなるのを感じた。
 「瞑想」
 「え?」
 あなたは目まぐるしく廻る思考に意識を奪われていた。
 「自分と向き合うんだよ。呼吸も意識できるし、やってみると案外いいものでさ」
 周囲は闇に包まれた。
 その中に、うっすらと光が灯る。そしてそれは段々と辺りを光で覆い尽くす。
 温かい。
 五感が研ぎ澄まれる。
 違う。
 これはあなたの瞑想。
 あなたは現実を見る。
 何も変わらないいつもの風景。
 ほんの数秒の瞑想体験だったにもかかわらず、呼吸が落ち着き、気分もすっきりしていることにあなたは気づいた。
 あなたは想う。
 人の想いは様々に変わる。
 今この瞬間に感じているものはもう次の瞬間には違った形をしているかのしれないと。
 あなたは前を向く
 人と人との繋がりを感じるこの世界をしっかりと見た。