「漂う」(第二十三話)
第二十三話
あなたは心を掻き乱されていた。
右手に刻まれし刻印に誓った。あなたが愛するのは、かのプリンセスであると。
あなたは想う。
あなたに寄り添うかの気高き女性もまたエルフか何か、人間を仮の姿として自身を抑えているのだろうかと。
あなたは思考がうまくまとまらなかった。
おかしくなりそうなほど心地よい香りがあなたの鼻を刺激する。
おかしくなりそうなほど甘美な声があなたの耳を刺激する。
おかしくなりそうなほど柔らかい感触があなたの肌を刺激する。
あなたは想う。
そのまま思考を放棄したならばあなたは奴隷のように意志を失ったかもしれないと。
「想い人がいる」
人間という仮の姿では力をうまくコントロールできないなか、あなたはかろうじてそう言葉を有機物であるかのように精製した。
あなたは確かに見た。
拒否とも取れるあなたの言葉に対してかの女性が一瞬恍惚な表情を浮かべたのを。
あなたは狂気を感じた。それと同時にその勇気もまた感じ入った。
あなたは想う。
刻は来た。
混沌の理から解放される今こそ、告げるべき刻であると。