2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

「オシャレ貧乏」(第五話)

第五話 仕事は朝九時から夕方六時までの週四日間からスタートした。時給だがオーナーの羽振りがよく、売上に応じてちょくちょくと手当を付けてくれた。このペースならばここだけで十五万ほどの収入になりそうだった。けれども会社勤めをしていた頃と比べると…

「オシャレ貧乏」(第四話)

第四話 アルマーニのスーツをその場で買うことを決めた。 細かな丈の調整などがあったため、引き渡しは後日となった。そして今日そのスーツを取りに再び銀座のアルマーニに足を運ぶことになっている。 気持ちがいいくらいに晴れ渡り、秋めいてきたとはいえ夏…

「オシャレ貧乏」(第三話)

第三話 トラブルが起きて会社を辞めるまではあっという間だった。 梅雨入りが宣言されたというのにほとんど雨が降らない空梅雨の六月。全然雨が降らないという印象のなか、その日に限っては本降りの雨となった。 朝、出勤するときから陰鬱とした嫌な感じは否…

「オシャレ貧乏」(第二話)

第二話 日本人は見た目で人を判断する。 ビジネスシーンでは過剰なまでにスーツを着て、髪の毛の色はぼぼ絶対と言ってもいいくらい黒でなければならない。オフィスカジュアルなんてものもあるが、それは狹い空間でだけ許された習慣であり、一般化はできない…

「オシャレ貧乏」(第一話)

第一話 銀座の敷居はかなり下がったと僕より少し上の世代は言う。 敷居が高かったと言われた当時、ただ街を歩くことすら見栄えを気にしてしまうというほどだったらしい。庶民的な、いわゆるカジュアルな服装で銀座の街を歩くことは普通の感覚をしていたらと…

「雪の瞳に燃える炎」(第十一話)

第十一話 環境の変化とは人の体に対して大きな負担を強いる。ただでさえ異国の地にて生活している身とあり、気付かないうちにストレスは大きくなっている。それに加えて、この旅はあまりに多くの「初体験」を光央にもたらした。その疲れが出たのか、マリオや…

「雪の瞳に燃える炎」(第十話)

第十話 カーテンを閉め切っていても午後の陽射しで部屋は明るい。目が慣れてしまった今となっては暗さなど微塵も感じない。 隙間なく爆発する爆竹のよう、怒涛の流れのまま、光央は雪の隣で体を横たえていた。天から降り注ぐ雪のように白より真っ白な肌には…

「雪の瞳に燃える炎」(第九話)

第九話 雪は祭りの詳細を語った。 遠くを見つめるその目には何が映っているのだろうか。懐かしむようでいて、悲しみの色合いが含まれているようにも光央は感じた。雪の言葉によって震える空気はいつだって色を帯びる。語られる言葉と帯びた色が合わなければ…

「雪の瞳に燃える炎」(第八話)

第八話 「今じゃ昼間は巡回したり治安維持にも力を入れてるから安全だけど夜は未だに犯罪の温床となってるとかってニュースでも見るし、そういった話も聞く」 小汚いゴミ箱や浮浪者のいた痕跡を残した袋小路が至るところに見受けられる。昼間とはいえ、密集…

「雪の瞳に燃える炎」(第七話)

第七話 気温がかなり上昇していた。街は初夏の陽気で人々はかなり薄手の格好をしている。実際の収穫時期を光央は知らなかったが、バレンシアオレンジがなんとも似合う気候だと思った。 雑多に賑わう駅の前でも、彼女を見逃すことはなかった。先に着いて待っ…

「雪の瞳に燃える炎」(第六話)

第六話 光央は店内の奥にあるトイレに立った。扉を一枚隔てているはずなのにその向こう側には彼女がいるとはっきり感じた。声が聞こえるとか、香りがするとかではなく、存在感が確かにそこにあった。 光央はどうしてここまで鼓動が高まっているのかわからな…

「雪の瞳に燃える炎」(第五話)

第五話 海からの風は冷たいものの、決して寒いとまで感じないのはバレンシアの恵みたる太陽のおかげだと光央は思う。 ここでは爆竹の音はほとんど聞こえない。聞こえてくるのは波の音、空を舞う鳥の声、そして、光央たちの笑い声。砂浜に足を取られながら歩…

「雪の瞳に燃える炎」(第四話)

第四話 光央は熱しやすい。けれども冷めやすくはない。今でもあわよくばフランチェスカとの関係をと考えてしまっている。それは大学生にもなって未だに異性と付き合ったことがないというコンプレックスが焦らせるものだとも思う。誰でもいいとは言わないまで…

「雪の瞳に燃える炎」(第三話)

第三話 晴れ男の光央は旅行先でひどい雨に見舞われるということがほとんどなかった。長く滞在していて雨の予報に出くわしても大事なイベントごとでは必ず晴れる。 今日から五日間、バレンシアの町はお祭りとなる。スペイン三大祭りの一つであるその「火祭り…

「雪の瞳に燃える炎」(第二話)

第二話 三月のバレンシアは日本と比べるとほんの少し温かい。緯度的にはそこまで変わらないし、気候も似たようなものだが、熱いスペイン人が温度を上げているのか、この日も昼間にコートは必要ないくらいの陽気だった。 白塗りの、高さはないがやたらと大き…

「雪の瞳に燃える炎」(第一話)

第一話 「初めて」というのは何事にも緊張を伴う。 スペインの空港がイタリアで見たそれと似ているようでいて違って見えるのは異なる国民性を反映したことによるものだろうか。海外にだいぶ慣れたつもりでいても、初めての地にはそわそわしてしまう。 光央は…