「漂う」(第二話)
第二話
あなたは深い闇にいた。
恐らく黒く負の感情を伴う比喩的な意味と同時に、そこはあらゆるものが感覚として捉えがたい漆黒の闇に包まれていた。
それは絶望。
考えることを一旦止めたというよりも諦めたことで陥った境地だとあなたは言った。
あなたは何もないということが心地よい。何も感じないということに僅かながらの快楽を見出す。
ただただあなたは疲れていた。
あなたは恐らく大きく皺の酔ったブラウスを着ていて、ボタンのいくつかは取れていた。スカートもタイツも破れていた。およそエリート弁護士という装いに相応しくない姿だった。
雑念が渦巻く。
あなたは突如として、あなたが言うところの目がくらむほどの神々しい光に包まれた。けれどもそれは闇に対置するところの光ではなく。それこそが闇だった。
あなたはそこで犯されていた。
抵抗虚しく、思考が追いつかない何かが体の中に入ってくるのを感じたようだった。
大きな声で何かを叫んでいた。だがあなたの声は聞こえない。体の芯に強烈に疼く感覚だけが残っている気がした。しかしそれももうよくわからなくなっていた。
自分という人間がわからなくなっていた。めちゃくちゃになっていた。ただ壊れていくのがわかる。身に起こる現実をありのままに受け入れることで光は闇となった。
あなたは闇に包まれているほうが幸せだと思った。感覚がないにもかかわらず、感覚的に幸せという認識に至った。
あなたは心を無にする。そうしてまた闇を深くしていく。決して光が届かないくらい深く深い、底などないほどの闇。
あなたは自分だけの世界に籠もる。音もなく、光もない、あらゆる感覚を必要としない世界。
それこそが平穏であるかのように。
永遠なんてない。
儚く脆いということがこの世の理であるかのように、闇は突如としてまた光に包まれた。