「漂う」(第七話)
第七話
あなたの意識に語りかけるのは日本語とは大きく異なる言語だった。
あなたはドイツ語をお茶しながら学べるカフェの一室にいた。ドイツ語講師がずっとあなたに呼びかけていたらしい。
あなたの意識は光と闇を彷徨っていた。すぐ向かいに座る大学生くらいの男の子と目が合い、あなたは彼のくすっと笑う表情に恥ずかしさを覚えた。
週に一度のドイツ語カフェ。あなたはそこで出逢った彼を気にせずにはいられなかった。彼を意識して見るたびにあなたの体は火照り、女として反応してしまう。
あなたは紛れもなく性依存症だった。抑えようとすればするほど、あなたは深く淫らなほどのレイプ願望を抱いた。
あなたにとって世間で言うところの光は闇だった。
あなたは自己を内面から見つめる必要があった。
弁護士という仕事が自分を抑圧しているのではないかとさえ考えた。
あなたは深い呼吸に意識を集中した。副業として、また、今の自分に必要なことでもあるとして、週に一度行うホットヨガのインストラクターとしての自分を想い出す。
「普段は弁護士ですが、内面を磨くためにホットヨガのインストラクターもやっています」
あなたはゆっくりだが丁寧な発音でそうドイツ語を響かせた。
あなたはつい正面にいる彼と目を合わせてしまう。
彼の驚きの表情、それはあなたに対する羨望の眼差し。あなたは勝手にそう解釈し、その嫉妬の渦にのまれたい欲求に駆られた。
あなたは動悸が激しくなるのを感じた。同時に、抑えきれず全身から溢れ出てくるものを。
あなたは少し席を外しますとトイレに立った。
そして闇から光へ、光から闇へと意識を彷徨わせた。