「漂う」(第二十一話)
第二十一話
あなたは動揺していた。
おそらく人生の中においてもっとも衝撃を感じたものかもしれないとあなたは深い呼吸とともに自身を落ち着かせ、今一度状況の理解に努めた。
「ずっと好きだった」
幼なじみからの一言。
長い付き合いで、好きとか嫌いとかそういう関係でもない。言葉にしなくとも無二の親友の関係ができていると、そう思っていた。
けれども幼なじみの本意を友情を言葉に置き換えた程度のものではないことがすぐにわかった。
真剣そのもの、言うことで関係を壊したくないが言わなければいけないという覚悟のようなものがはっきりと見て取れた。
今更ながらとあなたは振り返る。
幼なじみに交際相手が一度もいなかったことを。
「悪い……」
あなたはただ一言、そう言うことしかできなかった。なんと答えていいのかわからなかった。
あなたは想う。
自分のことをどこまでも理解してくれるのは間違いなく幼なじみという存在であるということを。
言葉にはしなくとも大切なひとりとしての認識があることを。
それでも。
幼なじみが望む意味での想いには応えることができない。
幼なじみはそうしたことまで理解してくれていた。
あなたが受け入れることができないということを。
後日、あなたは正直に告げた。
好きな人がいることを。
幼なじみは心から応援してくれた。喜んでくれた。祝福してくれた。
そしてあなたは、幼なじみの気持ちを心に、想い人に自分の気持ちを伝えた。