「漂う」(第十三話)
第十三話
あなたは独りだった。
周囲には敵でも味方でもない人々が行き交い、今いる場の空気を創り上げていた。
あなたはこの中に自分の敵がいるのを知っていた。
およそすべてを知るあなたは敵の土俵で勝負するリスクもためらうことなく行動に出た。
異界につながるであろうトンネルに入ると全方位の視界が開けた。
真っ青な空間。
その中にあなたは取り残された。
透明なガラスのトンネルの周囲には大小様々な魚がときに単独で、ときに群れをなしあなたに視線を向けていた。
あなたは敵が水属性であると知っていた。
およそ水に縁のあるものなら状態を問わず操ることができる異能の持ち主。
今あなたの行動は魚たちの目によりすべて敵に筒抜けになっていることをあなたは知っていた。
敵はカモフラージュとばかりにそのトンネルに普通の人々を招いている。
あなたは想う。
ここで戦うには多くの犠牲が出てしまうことを。
だがあなたは知っていた。
敵が仕掛けてくるときこそ最大の好機であることを。
トンネルを抜けた先にあなたは広いステージを見た。
終わったばかりのステージに群がる人混みのなか、あなたは光り輝くオーラを見た。
それは誉れ高きあなたが姫と呼ぶ将来の伴侶の姿。彼女は終わったステージの遥か先、遠く虚空を見つめていた。
どっと押し寄せる群衆。
次の瞬間には、もうあなたの目は高貴なプリンセスの姿を映し捉えることはなかった。